金曜の日中、往診先の近くの公園で
時間調整をしていたところ、

そろそろ、約束の時間に近ずいてきたので
公園の公衆トイレで用を済ませ、
車に戻ろうとしたら、
前方より老猫が歩ってきた。

白地に鯖柄が点在している猫だ!

ゆっくり、こちらに向かってくる姿が、
遠目から見ても、弱々しさが伝わってくる。

自分の性格上、
強いヤツには滅法強いが、
弱いヤツには滅法弱い…

素通りできる訳が無く、

やっとの様子で私の足元に辿り着いた老猫は、
私の性格を見抜いているかのように、
か弱く鳴きながら、
弱々しくスリスリしてきた…

明らかに人間慣れしている…

身体の中心に力が集まった
猫特有の俊敏性は影を潜め、
老人、老猫、特有の力が外に逃げている
重たそうな動きをしている。

詳しいことは分からないが、
間違いなく、容態は良く無いことだけが
手に取るようにわかる…

往診の時間も迫っているが、
自分の中のスイッチが入ってしまった…

あとには引けない…

この猫に、今、自分が出来ることを考える…

水もご飯も持っていない…

「ちょっと待ってろよ!」

と、老猫に一声掛けて車を走らせた。

最短距離でコンビニに向かう。

常温の水と液体に近い猫のご飯を購入し、
颯爽と老猫の元に戻った。

公園脇に戻ると、同じ場所に、
力尽きたように、道路の片隅で横になっていた。

「(逝ったか…?)」

「ボー」っと生きている人間とは違い
本能で生きている動物に
あの世のへの道案内など必要はないが、

近寄ると、重たそうにこうべ(頭)持ち上げ
「ニャー」と、か弱く鳴いた…

「(生きている!)」

買ってきた水を入れる受け皿?を作るため
ハサミで空になったペットボトルの底側を切って
即席の皿?を作り、
それに水をナミナミ注いで、路肩に置く。

続いて、液体に近いご飯をビニール袋の上にあけて、
ペットボトルで作った水の皿の脇に置いた…

ヨタヨタしながら、
ナミナミ注いだ即席の水受けに
鼻を突っ込みながら、水を飲みはじめた。

喉が渇いているようだ…

人間も死に際は
水が飲みたくなる…

巷では、
「最後に食べるとしたら?何食べたい?」
という現実の死に際とはかけ離れた、
仮想の問答をよく耳にするが、
現実の死に際には、
食べたい物は何も浮かばないものだ。

「食べたい」という欲求があること自体
生きる余力がある証拠で、

余力がある所には、
あの世からの迎えは来ない。

死に際である最後は、動物を含めて、
水だけが飲みたくなるのだ…

枯れていく身体に立ち入れるのは、
水だけなのです。

老猫は、少し休憩してから、
風上に置かれた液体状の餌には目もくれず
再び、水を飲み続ける…

か弱く、生きようとする
消えかけている小さな命に、
往診の時間を忘れ、このあと、コイツを
どうするか?水を飲む猫を守るようにして
腰を下ろし、考えていた…

その瞬間、尻に気配を感じた…

(オォォォ!)

つづく…