私の後ろには、人がいない筈。
何せ、客は私一人。

自分が座った席の後ろ側にある
出入口が開いたような気がしたが、

左肩を鷲掴みされた
強い感覚に気をとられていたため
定かではない。

こんな時、
普通の人なら、
どう対処するのか?
わからないが、

私は、この手の現象に
さほど驚くことは無い。

それにしても、
強く鷲掴みしているポイントが
凄く気になる。

なぜなら、
少しズレているのだ。

どうせ掴むなら、
もう少し右にズレたところを
掴んでほしい。

ハッキリ言えば
掴んでほしいツボから
ズレているのだ。

そんな得体の知れない輩に、
声に出さず心でドヤしてみる。

「(オイ!)」

実体のない輩なので
返事がある訳がない。

が、

間髪入れずに、

「(どうせ掴むなら、もう少し右側を掴めよ!
掴んでほしい場所がズレてんだよ!ボケ!)」

(ギュギュッ!)

左肩を掴む得体の知れない手が
強くなったように感じた。

わずかな時間であろう
そんなやり取りをしている間に、

再び、後ろにある出入口が
開いたのを背中越しに感じた。

今度は、間違いなく、
確実に、自動ドアが開いた。

ゆっくり振り返るようにして
背後を確認すると、

両耳にイヤホンを付けて
音楽を聴いている若い女の子が
頭を小刻みに縦に振りながら入ってきた。

髪は短くヤケに背中が丸い。

恐らく、
聴いている音楽に
一人でノっているのだろう。

注文カウンターに行くかと思いきや、
私とは反対側の1番奥の席に向かって
歩いていった。

「(何だ?アイツ!)」

変なヤツだ!

タイミングよく変なヤツが入ってきた。

 

 

 

 

つづく…