ある日の夕刻…

高架を走る線路には駅があって、
その高架と交差するように、下に道路が走っている。

夕方から夜の時間帯にかけては、
電車が止まる度に、高架下の道路に
下車した人が一気に流れ込んでくる。

その高架下には、信号が無く
横断歩道があるだけ。

車の交通量は、
そんなに多くはないが、
注意が必要だ。

次の電車が駅に止まり、
人の波が、高架下の道路に
流れ込んできた。

改札を出てくる人波の後方に、
手を繋いだ、2人の視覚障害者が
2人とも白杖を持って、
信号が無い横断歩道を
渡ろうとしている。

視覚障害者が、
信号が無い横断歩道を渡るには、
一目見て危ない事がわかる。

周りには、
何人か、人が行き交っているが、
手を貸す人がいない…

出た!出た!
日本人特有の「世間」には気を使うが、
「社会」には冷たい日本人特有のバカな振る舞い。

視覚障害者の近所の人、若しくは知り合いが、
この状況に出くわしたら、
自分にとって、視覚障害者は「世間」になるため
「世間体」を気にする日本人は声をかけるのだろう!

だが、「世間」を一歩出た「社会」になると
日本人は、極端に冷淡になる民族だ。

これは、外国には無い二重構造の思考である。
「世間体」を気にするボンクラ民族、日本特有の思考だ!
この「世間体」は地方に行けば行くほど強くなる。

話を元に戻す…

この視覚障害者が、横断歩道を渡ろうとするが、
その手前にある緑色のパイプのガードレールに
白杖が当たってつっかえている。

こういうの見ちゃうとダメなんだよねー
「弱い奴には滅法弱い」スイッチが作動してしまう。

乗っていた自転車を降りて、
走り寄り、声をかける。

どうやら、親子の視覚障害者のようで…
子供と見られる若い人は、
他の障害もあるように見受けられた。

私「反対側に渡りますか?」
親と思われる視覚障害者「ハイ!」
私「良かったら腕を掴んで下さい」
視覚障害者「ありがとうございます」

と、言い、
母親と思われる視覚障害者は
私の二の腕を後ろ側から掴んだのだ。

私「(お主!できるな!座頭市の末裔か?)」

目が見えない筈なのに、
二言しか言葉を交わしていない、
私の二の腕を一発で掴む母親。

私の声が発せられる、高さ、角度、方向、そして間合い、
全てを瞬時に見切って、
あたかも私の身体が見えているかのように、
手を伸ばし、迷い無く、二の腕を一発で捉える。

私「(流石だ!)」

つづく…