通り慣れた道に、立ち食い蕎麦屋がある。

昔、部活の最中に
後輩とよく食べに来ていた店だ。

当時、オバさんが一人で切り盛りしていた店で
カウンター5席しかない小さな店。

通りがけに中を覗いてみると
この時は、オバさんではなく、
オジさんが切り盛りしていた。

用事を済ませ、帰りがけに
寄ってみることに…

かれこれ30年以上振りの入店だ!

のれんをくぐると、客は、私一人。
店内も昔のままのような気がする。

春菊蕎麦を注文。

切り盛りしている
オジさんに話を振ってみる。

私「このお店、長いですね!」

オジさん「30年ですかねー」


「長いですねー!」
「昔、部活の時に抜け出してよく来ていました」

オジさん「この辺もだいぶ変わりましたからね〜」

私「以前は、女性の方がお店をやっていましたよね?」

オジさん「もう動けないよ!」


「(まだ生きてんだ?)」
「(寝たきりか…詳しい事は聞けないから…)」
「ウチの親父と同じだ!」と、返す。

オジさん「……」

昔、食べに来ている私達に、
優しい言葉で見守るように
接客をしてくれたオバさんがとても印象的で

注文を受ける柔らかさ
品を提供する際の所作
会話の端々にみえる笑顔が
優しさに溢れていたイメージが
強烈に脳裏に焼き付いている。

それに引き換え、
悪気はないのは十分わかってはいるが、
このオジさんの粗雑な所作
動きが硬く、動作で出る音もうるさく、
頭の固さも伝わってくる振る舞いが目に付く。
他にやる事がないから店をやっているような
態度がヒシヒシと伝わってくる。

昔は、若さと馬鹿さで
考えもしなかった事も
30年の月日を重ねることで
色々と考えるようになる。
それは、身体の観察力も同じだ。

色々な事情で動けなくなったオバさんに対して
残念に思う気持ちと、
まだ御健在であるという安堵感と
かなり複雑な思いにかられながら
30年以上振りに蕎麦を食べた。

そんな事を考えながら
食べた蕎麦の味は
正直、あまり美味しいとは
言えなかった。

オバさんの時の方が
美味しかった。

やはり、自分の足で
最後まで生活できるように
身体の中心はハズせないと感じた味?が
したような…

同じ空間で、遠い記憶が蘇るような
不思議な時間を味わった瞬間でもあった…

追伸

身体の中心!

やっぱり大事ですね!